第一章 ナイルの川岸で

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彼女達の背中を見送り、 イシスは「さて洗濯しなきゃ」と洗濯籠を手に部屋を出た。 すると、居間で寛いでいた母は、その姿に目を丸くした。 「イシス、そんな籠持ってどこに行くんだい? 帰還祭は?」 「洗濯物が早くに終わったら行くわ」 「洗濯物って、お前、花束贈呈に選ばれたんだろう? 早くから準備しなくていいのかい?」 「あー、はいはい、帰って来て気が向いたら準備します」 イシスはあしらうようにそう言い、そのまま家を出ると、 「洗濯なんて明日でもいいよ!」 と母親が大きな声を出していた。 イシスはそんな母の声を無視して、洗濯籠を持ちながら、 ふんふんと鼻歌を唄いつつ軽い足取りでメンフィスの町を歩いた。
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