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あの日から、君は僕の心を掴んで離さない。
「あ、高橋くんだ!!」
「うっわー今日もイケメンっ」
僕が道を歩く度女の子たちのささやき声が聞こえてくる。
けっしてナルシストでも自意識過剰でもない。本当の事なのだ。
生まれた時から容姿だけは恵まれていた。
さらさらの茶色い髪、キリッとした目、唇は薄くしかし色気がある。
スタイルだって悪くない。もともとスポーツが好きなせいか筋肉が程よくあり引き締まっていて、八頭身だから身長も結構高い。
だから、女の子に事欠いたことは人生の一度だってなかった。
…なかったんだ、今までは。
そんな僕にも本気で好きな人、というものができてしまった。
名前は野村絵里。同級生で、隣のクラス。
見た目は…かなり可愛いのだが、あいにく僕は人を外見で選ぶ人間ではない。
自分が外見で見られる分、人に対してはそういうのを求めたことがなかった。
まぁ、彼女が可愛いのは事実だとして、残念ながらそれに気づいているものはあまりいない。
それもそのはず。彼女の学校での服装といえば、校則を忠実に守った膝が隠れる長さのスカートにハイソックス。
おかげで彼女の足はほとんど見えない。
さらに長い髪を今時ありえないくらいきっちり三つ編みしている。
視力はいいはずなのに、ビン底メガネみたいなのを付けているのも原因の一つだと思う。
休み時間はいつも読書をして、時々似たようなおとなしめの女子と話す程度。
これだけ条件が重なれば他の奴らが彼女の魅力に気づかないのも当然である。
一度、その事を彼女に聞いた事がある。
「どうしてそんな格好してんの?」って。
すると彼女は「蒼空くんには分からないかもしれないけど、私は普通が欲しいの」と言った。
「でも、そんな隠す必要ないのに…」と言うと決まっていつも「そしたら普通が手に入らないでしょ?」と悲しそうに笑っていた。
あれはもう、半年も前のこと。
思い出す度胸が痛いのは彼女の言葉が理解できるようになったからだと思う。
いつものように隣の教室の中を覗く。
彼女の席はぽっかりとあいていた。
彼女を好きになって告白した時、その時にも同じ事を言われた。
「私は普通が欲しいから、普通のお付き合いでお願いします」と。
普通と言われてもよく分からなかった僕は、今まで付き合ってきた彼女と同じように絵里とも付き合った。
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