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彼女の要望で誰にもバラさず、所謂“秘密の恋”ってやつだった。
“秘密の恋”という響きが新鮮だったのは最初の一ヶ月だけで、もともと秘密とか苦手な性分の僕はだんだん彼女との付き合いが苦痛になってきた。
それで他の女の子と浮気するようになったのが、二人が付き合い始めて二ヶ月くらいのこと。
何をしても目立つ僕は浮気のこともすぐ彼女にバレた。
彼女は始め怒っていたのだが、僕がキスして「もうこんなことしないよ」といえばすぐに分かってくれた。
今思えば彼女は僕の嘘に気付きながらも待っていてくれたんだろう。
そうやって伸ばしてくれていた手を、僕はいとも簡単に払ってしまった。
繰り返す浮気。その度に「もうしない」と彼女に言う僕。
優しい彼女が壊れるのにそう時間はかからなかった。
ある日。そうその日はやけに太陽が眩しくて、ギラギラと肌に焼けつくようだった。
いつものように校舎内に入ると、何だかいつもより騒がしい。
その元凶は隣のクラスからだった。
人ごみをかき分け覗くと、彼女がいたがその様子がいつもと違った。
髪は三つ編みではなく、ゆるく巻いてふわっとしていた。
メガネはかけていないし、スカートの丈もいつもより短く足が出ている。
どうやら騒がしい原因は絵里の突然のイメチェンにあったらしい。
確かにこのイメチェンでは騒いでしまうのも無理はないと思う。
僕がぼーっと彼女を見ていると、彼女は僕の方に向かって歩いてきた。
そして僕を見て「蒼空くん、話があるの」と言った。
勘違いしたらしい輩は僕と彼女を好奇の目で見つめる。
男子は羨望、女子は嫉妬といったところか。
どちらにせよ、頷いた僕は彼女に誘われるがまま図書室に連れられた。
朝の図書室には人がおらず、誰にも遠慮をすることがなく声を出せる。
「イメチェン、したんだ」
僕が絵里と向き合って始めに言った言葉がそれだった。
今思うと、酷い。もっと聞かなきゃならないことがあったのにその時の僕はそれに気づかなかった。
どうして普通を好む彼女がそんな普通ではないことをしたのか。それを尋ねられたら、今こんなに後悔することはなかったのに。
「そうだよ。…似合ってる?」
「うん!! すっごく可愛い!」
「…ありがとう」
「やっぱり思った通りだ。絵里は可愛いんだよ。それを隠す必要はないと思う」
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