青金の明日へ

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奴が善意や正義感で俺をこの島に導いたわけではない事は理解した。 きっと、このドールという男は酷く合理的に生きているのだ。歯車がズレて狂ってしまうなら、どんなに細やかなものでも自分の思い通りに正さなければ気が済まないのだろう。 畏怖すべきは、本当に自分の思うやり方を実現出来るほどの力を持っているという事だ。 「その生き方、つまらなくないか。」 「ふん、言ってくれる。」 ちょっとした嗜虐心で口にしてみた。するとドールは不機嫌になるわけでもなく、表情を変えずに相変わらず偉そうな態度を貫いた。 「此処まで情報を寄越したんだ。少しくらい自己紹介をしてくれても構わないんじゃないのか。」 「それは貴様もだろう。」 「観察してた癖に白々しいな……」 改めて魔族の動く理由を教えてくれた事には感謝している。だが、俺の知識欲を震わせている疑問はそこではないのだ。 不思議な能力と外見に似つかわしくない口調……ドールという人間は底が知れなさ過ぎて不安になってしまう。 確か歳は四十幾つだったか。絶対にそれも嘘だ。 「………この場所は、かつて人間倫理外の実験をするための秘密研究所だった。」 「おい、誤魔化すのか。」 口を開いたと思えば、ドールは明らかに質問とは異なる趣旨の話をし始めた。俺は不満を漏らすが奴はそれを無視してそのまま言葉を続ける。 「研究者が自らの研究を侮辱する事はあり得ない。つまりこのガラス破片の散乱した惨状は此処の主が致したものではない。」 「………?」 「なら、この研究の全てを破壊した者は誰なのか。」 腹立たしい事に、奴は俺を話に引き込むのが達者だ。気が付けば聞き入ってしまっている自分が居る。 ドールは逸らしていた視線を元に戻し、再び俺の目に真っ直ぐ合わせて来た。 「貴様の祖父にあたる者だ。」 「!」 ────『その手繰り寄せた知識からクレイトス氏の足取りを予知し、拠点(ロッジ)の場所を暴き隊を編成して制圧させたのが───』 「まさか………ラジェナリア孤島を発見していたというのか。」 「知らん。」 俺が手に入れていた情報に沿えば酷く辻褄が合う。何ら不思議な事ではない。 だが、それならば何故俺の祖父はこのラジェナリア孤島の事をスローラル王国に伝聞しなかった。王国が知っていれば、今頃はこの貧困に対して何らかの救済措置が採られていたというのに。
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