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「残念じゃが……」
「っ………」
スローラル王国国王、アデル・スローラルは重々しい雰囲気で告げた。それを聞いた四人の青年男女と一人の男が悲しげに俯く。
スローラル王国、王城の謁見所。豪華で煌びやかな装飾が魔鉱石の光を瞬かせるその広い空間に、彼らは居た。
だが、空間の明るさをもみ消すほどに、彼らは傷心を抱いていた。
「海域一帯と、海流の行き着く所まで三日ほど……これ以上の捜索は蛇足と判断したよ……」
アデル国王の横に並ぶ二十代半ば程の男性は悲しげな様子で捜査結果を言い放った。それだけでもこれ以上口を開きたくないという感情が窺える。
ゼノン・スローラル、王位継承権を持つ王太子だ。
「……………」
「ウル……」
黙ったまま俯く四十代の金髪の男性。青年男女の四人がアデルの言葉に乗じてそちらを見るも、彼は無表情を貫いていた。
ウル・ソルト。今告げられた捜索対象であるエル・ソルトの父親である。五大貴族の『雷』の柱を収めるソルト家の当主だ。
「……陛下、失礼いたします。」
「あ、ああ……しっかりの……」
ウルは直ぐに退いた。安定した引き際の良さにアデルは動揺を見せる。
この後にどれだけの怒りと憎しみを燃やし、悲しむかを想像するのは容易いもので、上手く言葉が掛けられないのだ。
「………」
「………」
場を沈黙が支配する。いつかこのような事態が起こるかもしれないと懸念していたことが、何ら手を出す猶予も無くあっさりと起こってしまった。
埋め尽くす感情は様々なもので、悲しみや怒りより他に後悔の二文字が大きく彼らを突き付けているた。
「……すまぬ、皆の者………」
「! 陛下……!」
静かに立ち上がり、頭を垂れるアデル。急な行動に周りの側近達がたじろぐ。
「ヴァイナンスの奴に叱咤されてしもうた。儂はおぬし達の身の安全をもっと考慮しなければなかったとな。」
「………」
四人はヴァイナンスが五大貴族の存在の重要性をどれだけ注視していたかを思い起こす。フロール王国は五大貴族を王都の外に出す事すら禁じようとしていた。
「奴の慎重さがどこまで正しいかはわからぬ……。じゃが、儂が踏み込み過ぎた判断を下したのも事実じゃ。」
「陛下……」
悲しみを膨らませるのは自分達も同じだが、当事者でないアデルが頭を下げた事を有り難く思う反面、申し訳なさが四人を襲った。
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