序章

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やがて、五年ばかりの月日が経ち、赤子はすっかりと女童となっていた。 不思議なことに、黄金色の髪は、日を追うごとに黒くなっていた。 女童は庭を飛び回る蜻蛉を夢中になって追いかけている。 母は愛おしそうに女童を見つめていた。微笑みながらも瞳はわずかに寂しさを浮かべている。 「水葉(みずのは)…」 名前を呼ばれて、女童は振り返ると、満面の笑みを浮かべ、嬉しそうに母の懐めがけて飛び込んだ。 母は飛び込んできた娘をぎゅっと抱きしめ、優しく語りかけた。 「水葉よ…明日の夕暮れに、ある男が山の麓の鳥居に現れます。 その人に密かに着いて行きなさい。そうすれば、そなたは生きながらえます。」 「ははさま?母様はいかぬのですか? ならば、水葉も行きませぬ。妾は母様と一緒が良いのです!」 水葉は母の目を見て強く言った。 「水葉…いいですか? 母は今からやるべき運命(さだめ)に向かわねばならぬのです。」 「でも…わたくしは…」 「水葉…そなたは母のために生きて欲しい。 …大丈夫。 また、時を越えて会えようぞ…」 母は優しく諭すと、しばらく腕の中で、愛しい我が子を抱きしめていた。
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