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プロローグ
この世の中は不公平だ。
得をする人、損をする人。搾取する人、される人。この不条理な世界の歪みを、僕には変える事は出来ない。
生物は群れをなす。個の危うさを本能的に覚っているから。だから群れて個である身を隠すんだ。僕は群れる事が苦手だ。他人と上手く付き合えない。これは全くの致命的事象だ。
「母さん……。何で僕を置いて逝ってしまったの?」
強者と弱者の歪んだ世界の相関図は、ある時ある要因を持って決定される。そう。圧倒的な力だ。
身体的優位。強大な組織。裕福な家庭環境。上司と部下。大元と下請け。男と女……。
そんな世界だから、何も覆せない弱者が生まれる。その最弱の者が僕だ。僕の存在意義って何だろうか?
「母さん……。僕は存在してはいけないの?」
この不条理な世界において、僕はあまりにも非力。忍者戦隊空手マンも、何時も現れてくれるとは限らない。空手……。続けておけば良かったのかな?
でも僕には人を殴る事なんて出来ない。殴られればどれ程痛いのか、悔しいのかを解っているから。
テレビの中の天使は僕を知らない。透明な僕は透明なままで。一生彼女には気づかれぬまま、朽ち果てて行く。溶けて無くなって、記憶にも残らない。
みんな不安定な現実に目を瞑り、誤魔化しながら、騙しながら活きているんだ。きっと、解決策なんて無い……。
「母さん……。それでも僕は素敵な人を見付けたよ」
あの子が同じ場所で同じ空気を吸い、同じ対象者と笑いながら歩いている。
あの真っ白で柔らかそうな肌の内には、僕と同じ様な赤い血が巡っているのだろうか? 本当に同じ物質で構成された同じ生き物なのか?
テレビの中以外に、あんな子が存在するなんて。全く信じられないんだよ、母さん……。
顔を撫で回る不快なヤツらも居なくなった。
耳障りな工事の音も、今は何も聞こえ無い。その代わりに歌が聴こえる。
母さんが何時も歌ってくれたあの歌……。
母さんが好きだった花が揺れている……。
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