さくら

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幸の家に行くときは、いつも近くの公園に車を停めている。 おれは気がきくから、相澤先生を家まで送ると申し出た。 朝のまだ早い時間なのに、公園には犬の散歩をする人やジョギング、ウォーキングをする人がちらほらいる。 「送ってもらってありがとうございます」 幸を挟んでおれたちは歩く。 遊歩道の藤棚はまだ枝しかない。 「お礼は無事、家に着いてからにしてください」 と幸が言う。 桜が盛りをむかえつつある。 風が吹くと、ときおり、花弁がどこからか散ってくる。 春は、なんだか、切ない。 「相澤先生、聞けますか?」 おれは尋ねてみる。 「幻滅されてないかなぁって、それだけが不安です…」 相澤先生は、ドレスの上に幸のパーカーを羽織っている。 「今まで、ほんとうにいい友だちで、その関係性が崩れるのが嫌だなぁって」 はにかむ相澤先生は、とても綺麗だ。 「相澤さん、ぼくは壊れませんでしたよ?」 いたずらっぽく、幸が言う。 「あはは、そういえば!そんな話したわねぇ!笹本くんに先を越されちゃった」 「…おれのこと?」 幸、相澤先生に相談してたのかな。 「そーですよー!詳しい話はなぁんにも教えてくれないんですけどねえ!」 幸がおれのことで悩んでた(かもしれない)とおもうと、嬉しい。 「相澤先生の恋がうまくいきますように!」 おれが言うと、相澤先生は自嘲する。 「もう恋なんて言ってる年でもないんですけど」 「なに言ってるんですか!年上のおれが笹本に恋してるんですから!年齢は関係ないです!」 おれはそう言って、隣を歩いていた幸の頭を右腕に抱え込んだ。 「ちょ、」 幸が「ヤメロ」と抵抗している。 「ああ!山内さんっ、わたしがきゅんとしちゃいます!」 お、いつもの相澤先生だ。
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