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耳を疑った。
私が何も言わないから彼はここに来てくれるの?
私が失った言葉が、彼を、縛っているの?
だったら、それだったら
やっぱり私は泡になんてならなくていい。
私はただ自分のためだけに
彼を想う言葉を封じ込めようと胸に誓う。
例えこの先何度落とされても絶対に言ってやらない。
これが私の駆け引きであり、唯一のつながりだから。
それは、先の見えない不安だらけのこの関係に、希望の光が見えた一瞬だった。
「っつーか、おまえ、俺のこと、そんなに好きじゃねぇじゃん? だからちょうどいいわけ」
思い出したように口を開いてから、ニッコリ笑った彼は
いとも簡単に再び私を深い海へ突き落とした。
希望が見えたそのすぐ後に
たった一言で
いつもよりも、もっとずっと深い海の底へ。
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