第二章 思い通りにいかないのが世の中なんて思いたくないけど-2

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ここ数年の間に様々な施設が自前のオンライン予約システムを立ち上げていた。むしろそのうち、オンライン予約がないようなレストランは廃れていくんじゃないだろうか、そんなことを思う。自分のように、オンライン手続きが出来ない店は選択肢に入らないような人種が居る限り。 予約が受け付けられメールが届くのを確認すると、PCをそのままに、今度はスマートフォンを取り上げて亜紀へメールを送る。 「今日は久しぶりに会え、びっくりすると共にとても懐かしい気持ちになりました。  何よりも、中野さんが俺のことを覚えてくれていたことに感激しています。また会えて嬉しいです。  それと、今日は時間が無く、俺から話を切り上げてしまってごめんなさい。  お詫びというのも変だけど、今日話した通り、今度一緒に食事でも如何ですか?  もちろん費用はこちら持ちですのでお気軽にお越しください。  お店は予約していますので、東鉄の海浜駅まで来てもらえれば後は現地まで案内します。  明後日の火曜日、19:30で取っていますが、もちろん都合よくなければ別の日に―」 あえて「会う」ではなく「逢う」と書いて、眺めてみて恥ずかしくなり元に戻す。「送信」ボタンを押そうとして思い留まり、やっぱりこっちの方がと書き直す。 そんなことを数十分も繰り返し、ようやく出来上がったメールは送信の操作と共に、それまで悩んだのがなんだのかと思うくらいにあっさりと飛んでいった。 「はぁーっ!」 健治は大きく息を吐いた。こんなに一生懸命にゲーム以外のことをやったのは久しぶりだった。一気に脱力する。一仕事をやり終えた、と言った風にPCを離れてベッドに腰掛ける。 勢いでメールを送るところまでやってしまった。もう後戻りはできないぞ、と思う。 健治はまだ夢見心地であった。ここ数年まともに恋愛、結婚、そんな事を考えたことがなかった。自分は一生そんな話とは無縁だと思っていた。 まず何より、異性の知り合いを作るのにハードルが高かったから。だが、ひょんな偶然から恋愛対象が目の前に転がり込んできたのだ。 今日の昼間に自分で否定しておいてなんだが、本当に「運命」なのかもしれない、と健治は思いはじめていた。
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