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道化の笑いがぴたりと止まる。ことんと首を倒して、
「何をそんなに怒っているんだい?」
「この際全部話してやるよ。お前が知らなかった真実の全てを。あの日何が起こったのかを。
──あの日全てを台無しにしたのはお前自身だ、モーディ・リアン」
道化は腹を抱えて高らかと笑った。
心外だと言わんばかりに、
「僕のせいだって? 僕は何もしていない。こんなことになったのは全て君のせいだ。僕を死に追いやったのは君だ。全部君のせいなんだ」
クレイシスはもう一度、絵画に拳を叩き込むことで道化を黙らせた。
「なぜあの日、姉さんの肖像画をラーグ卿に手渡した?」
「僕はルーメルだ。絵を頼まれればそれを提供するのが僕の仕事。当然だろう?
サーシャに頼まれていたんだ。肖像画を。それが仕上がったからラーグ伯爵様を通じてサーシャに渡すよう頼んでいただけだ。それのどこが──」
そこまで言ってから、道化の顔から一瞬にして笑みが消える。
気付いたのだ。
死んでようやく、今になって。
道化は青ざめたような顔で小刻みに震え出し、静かに首を横に振った。
「まさかそんな……。嘘だよ、そんなの……。僕は信じない」
「なぜ気付いてくれなかった? どうして? 何の為にオレがこの家を用意したのか考えてくれなかったのか? なぜオレのことは秘密にしろと姉さんに言っていたのか、なぜ二人きりで会えていたのか、考えてくれてなかったのか?
本当はもう二度と会ってはいけなかったんだ。それでも二人を会わせる為にはこれしか方法がなかったんだ」
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