第1章

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「おいおい、俺が格好ええからってあんまほめんなよ」 そう言って後ろから声をかけてきたのは、琵琶湖ケイイチである。 広島と山口が話してた通り、バッティングセンスは抜群である。 長距離打者ではなく、中距離打者、アベレージヒッターである。 とにかく柔らかいバッティングで、たいていのボールはヒットにする力を持っている。 が、あまりヤル気がなく、気分の良し悪しで打力が大きく変動する。 良し悪しを左右するのは応援の数、それも女性の。 女性の応援が多ければヒットを放つ確率が飛躍的に上がる。 仮に相手が有名投手であってもそれは変わらない。 逆に女性がいなければ全くヤル気を出さない。 それは公式戦であっても不変である。 「俺らがほめてケイイチがホームラン打つんやったらなんぼでもほめるわ。なあタカ」 「よしたかの言うとおりや。俺らがほめたかて余計ヤル気なくなるだけやのに、ほめるわけないやろ。そんなことやなくて、このまま1回戦勝てんまま引退するんやろかって話してたんや」 「何や、そんなことか」 「そんなことて。ケイイチは勝ちたくないんか?」 「俺はどっちでもええわ。女の応援が多ければ打つし、少なければ全く楽しくないくらいで、試合に勝つ、負けるは俺にはあんまり関係ないな」 「たぶんケイイチはそうやと思ってた。だいたい女の数多いか少ないかでヤル気変わるとか野球を真剣にやってる態度やないからな」 「何や、広島、怒ってんのか」 「別に怒ってるんやない。寂しいだけや。よしたかとケイイチとは小学生の時からやし、あの時はそこそこやれてて、中学では全国狙えるかくらい考えてたのに、何や現状考えると寂しくてな。今さらやけど」 「タカ、そんなん考えてたんか」 「さっきも言ったけど、よしたかは何も考えてないもんな」 「だから俺をアホみたいに言うなって」 「まあケンカはやめとけ」 「ケンカやないやろ。お前ら二人とも悔しくないんか。俺はキャプテンとしてやっぱり悔しいわ。せめて1回くらいは勝ちたいわ」 「今から頑張ってやったってたかが知れてる。仮に俺がヤル気出して毎回打ったかって、後に続く打者がおらな点とれん。俺が女だけで打つ打てへん決めてるように思ってるかもしらんけど、俺は打っても次のバッター打たな点は入れへんから特にヤル気出してないだけや。無駄なことしたくないだけや」
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