第1章

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「サンジ、ちょっと」 練習が始まり、広島はランニングを始めようとしていた淀川を呼び止めた。 そこには他に山口と琵琶湖もいた。 昨日山口が言っていた浪速の件を聞こうというのだろう。 「どうしたん?三人そろって?」 淀川は屈伸運動を始めながら言った。 「昨日山口から聞いたんやけど、浪速を誘うてるらしいな」 琵琶湖が聞く。 「あいつは1年の最初に野球部には入れへんって言ったのに何を今さら、それも4ヶ月後には引退やのに何で誘おてんるんや」 淀川は膝を曲げた状態でう~んと下唇を突き出した。 「何でってことやけど、それは勝ちたいから、全国に行きたいからかな」 淀川はすっと立ち上がりそう言った。 「勝ちたいて、浪速が野球してたのは昔の話やろ。そんな奴誘うて戦力になるわけないやろ」 「みんな知らんもんなあ」 「知らんて、何がやねん」 「和博は野球してへんことはないで」 「和博て、お前えらい仲良えんやなあ」 「まあな。和博はたまに草野球の助っ人とかで試合には出てるんやで」 「草野球と公式の試合とは違うやろ」 「浪速はどうやろなあ」 黙っていた山口が入り込む。 「こないだバイクの後に乗ってたみたいやで。それもえらいヤンチャなバイクや。仮に野球が上手かってもチームに馴染まんのちゃうかあ」 「みんな勘違いしてる。和博はええやつやで」 「サンジのこと俺らは信頼はしてるけど、浪速はなあ~」 広島が言う。 「あのガタイやしヤンキーと絡みあるしなあ~。そんな人間がいきなりチームに入ってうまいこと馴染むか?」 「それは俺が保証する。俺が退院した後、リハビリも兼ねて1人でトレーニングしてたの知ってると思うけど、あの時和博に手伝ってもらってたんや。その時からやから、和博とは1年半くらい一緒にトレーニングしてる。何を今さらって言ってたけど、俺はずっと前から和博を誘ってる。ずっと断られ続けてるだけや」 「それを俺はたまたま見たってことかあ~」 「トレーニングって何してたんや」 「だいたい全部やな。もちろん投球練習もしてるで。和博がキャッチャーでな」 「へえ~。サンジの球取れるんやな」 「それも上から投げてるけどな」 「上からって!怪我してからサンジずっと横やんけ」 「それはコントロールがつかんから。ほんまはもう上から投げれるけど、まだ百パーセントやないから」
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