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「私、うさぎなんだよ」
携帯電話越しに、彼女が言った。
唐突な台詞に、僕の頭の中で愛くるしいウサギたちがぴょんぴょんと跳ね回る。
しかし、彼女の声色はそんな愛らしさとは無縁だった。
「ちょ、ちょっと待って梨華」
想像のウサギたちをすぐさま外へと追いやり、僕は彼女に呼びかけた。
それほどに、梨華はご立腹で興奮しているように思えた。
「怒ってるのはよくわかった。だから、その理由を教えてくれないか?あと、うさぎってなに」
2時限目の講義が終わった直後だった。
梨華から着信があったのは。
リュックを肩にかけて食堂に向かおうとしていたが、常時の賑やかさを思い出し、諦めた。
友人に断りを入れて、建物から出る。
食事を優先させても良かったが、何度も震える携帯が気になった。
ーーそれに、梨華の性格を考えると。
出来るだけ早く応えたほうが賢明だろう、と思う。
それも、失敗だったのだけれど。
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