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構内の整えられた芝生の上を歩いていると、携帯が何度目かの着信を告げる。
ポケットから取り出し確認すると、やはり彼女だった。
脳裏に、姿が浮かぶ。
ハニーブラウンのウェーブ髪。
黒目の大きなコンタクト。
目を縁取る、少し濃いめの化粧。
可愛いといえば可愛いが、よくある、『今時』の女の子が梨華だ。
急ぎの用があるんだろうか。
そう思い、通話ボタンを押した瞬間だった。
「もっと早く出てよ」
叫ぶような金切り声に、思わず電話を遠ざける。
耳が痛い。
梨華に聞こえないよう、ため息をつく。
電話越しに、ぶつぶつと言う彼女の様子に、これから話されるであろう会話にも予想がついた。
きっと、また僕に対する文句だ。
人の少ない場所を探すと、北門近くに大木が、その下にひっそりと設置された寂れたベンチがあった。
梨華に謝りながら、移動しそこに腰かける。
秋ぐちだが、日差しが強かった。
ベンチにかかる大木の陰は、ちょうど良いと思った。
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