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同時に、「ふふっ」という笑い声が聞こえた気がして、僕は周囲を見回した。
当然ながら、誰もいない。
わざわざ人のいない場所を探したのだから。
「聞いてるの?」
と、梨華が言う。
泣いていた筈なのに、口調はもう責めるようなものに戻っていた。
勘違いか、とも考えたが、ふと思い出す。
些細な出来事でぽろりと涙しては、すぐに調子を戻す彼女の姿。
それは性分なのか、計算か。
別にどちらでもいいのだけれど。
そんな強か(したたか)さも悪くはないし、しかし涙の安売りだと呆れたことも少なくなかった。
「聞いてるよ。だけど、よく話が見えない。そもそも、うさぎが寂しくて死ぬって」
「昨日」と、梨華が強い口調で僕の言葉を制した。
「昨日、電話くれなかったじゃない」
ぽつりと呟く。
「それだけで?」
「それだけって何よ、その言い方」
僕が吃驚して問いかけると、梨華は怒鳴った。
「待ってたほうの気持ちも考えてよ」
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