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大きくひとつ息を吐いて、こめかみを揉む。
3時限目を取っていなくて良かった、と思いながら、僕はベンチに寝転がった。
薄めの教材を選んで顔に被せる。
思い返すと、また腹が立つ。
彼女に悪い、大人気ないと理解しつつも
「……くそ梨華」
と、悪態をつく。
そのときだった。
再び、「ふふっ」という笑い声。
「……誰かいんの?」
問いかける。
存外、冷たい声が出てしまった。
今度は間違いなく、空耳ではない。
半身を起こし、周囲を窺う。
教材がするりと顔から滑り落ちた。
声は、大木の後ろから聞こえてくるようだった。
「ごめんなさい。聞くつもりはなかったんだけれど」
もちろん笑うつもりもーー
と、声の主は控えめに付け足した。
「同じ名前が聞こえたものだから。思わず、返事をしそうになったわ。無関係なのに」
「……りか?」
一寸、間を置いて僕が言うと、彼女はまた軽やかに笑った。
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