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       荒廃した世界。剣と魔法を駆使して魔物を倒す。  自分の隣には、助けてくれる仲間たち。  出てくる画面はきれいにトレースされたアニメ画面で、少し少年の好みの絵柄だった。  しかし。  個人の携帯に、わざわざ新しいSNSのゲームの広告なんて有り得ない。このログイン先をクリックしたら、きっとひどい詐欺に巻き込まれるだろう。  しかも。  設定が王道というか、ありきたりで古すぎて、並みだ。過去にリリースされたどのゲームにも見劣りがする。……絵柄はちょっと好みだけど。    ベッドから立ち上がり、寝間着代わりのジャージを脱いで、中学校の制服に着替える。  あくびを噛み殺しながら階下に降りると、高校の制服の上から白いエプロンをして朝食を作っている姉の姿を眺める。  いつもの光景だ。 「あ。おはよう、しいちゃん。ごはんが出来る前に起きてくるなんて、めずらしいねえ?」  振り向いてにっこりと笑うと、姉の春香は弟のしいなに、そう語りかけた。  長い背中までの黒髪に白い肌、大きな黒い瞳で、愛くるしく笑う春香に、しかし、しいなは笑いもせずにうなずくだけで、リビングのいつもの自分の椅子に腰かけた。
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