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黄昏時、空は明るさを失うが、ここは活気を増していく。
駅から続く飲み屋街。表通りも裏にもひしめき合う夜のざわめきの中で、その路地は細くひっそりとしていた。
腹をおさえてうずくまる女は痛みで脂汗を浮かべながらもうっすらと笑っている。
“何が愛だ”
心底似合わない名前だと今日ほど思ったことはないだろう。これて、涙の一つ流せる女ならば、もっと可愛げがあったかもしれない。
女は、愛は嘲笑したのだ。
くっと、口の端を上げて笑おうと試みると、鳩尾からの痛みで、すえたものが上がってきた。
えずくように前のめりになるが、朝からなにも入れていない胃は出すものすらない。
吐き出す事もできないとは。
本当に笑うしかない。
「……ば?」
いきなり降ってきた声に驚いたが、今だ痛む体は上手く声の主を捉えることができなかった。
「違う、大丈夫です、か?」
声の主は言い直した。
「怪我をしてる?」
「どこか痛い?」
首を降るのも億劫なのに、その人は問いかけた。
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