第1章

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 まさにお手上げといった感じで、私は美しけれど、 頑なな箱を、静かにテーブル置いた。一服しようか。 スライドさせる箇所が1つも無い。どうしても無い。 開くように作ってあると、そう思えなかった。 「秘密箱」というのがある。箱根の寄木細工として 有名な伝統工芸だが、仕掛けが巧妙に施されている。  パズルが好きな私と友人Aは、この箱に挑んだが、 友人Aは早々に断念、私に任せて帰っていった。  持ち主は彼女なのだが、潔さに笑ってしまった。  他力本願ってところか。  外見の美しさとは裏腹に、同じ手順の繰り返しで 容易く開くとは限らず、手順を戻す。だとか 開くと思っていたの逆に裏側が開くという箱とか。  簡単に開いたと思えば小銭一枚がようやく通る窓。 つまり、貯金箱になっていて、そこからは出せない。 三角形の箱、五角形、六角形と形も様々にあるし、 隠し引き出しがある箱、開けると音が鳴る箱など。  その種類は様々にあるらしい。これはどんな箱か。  貴重品や、幼児に危険なモノを保管する等にも、 使えるし美術工芸品として、箱を鑑賞するのも良い。 色味、細工等の為に、日本全国の木々を使うらしい。  箱根駅伝の優勝トロフィーも、寄木細工だとか。 「秘密箱」にメダルが入ってたら選手は大変だろう。 机の上の「秘密箱」を横目にして、珈琲を淹れつつ、 私は思わず想像して、苦笑してしまった。  ただし箱根山の樹木は使わないらしい。  この箱は幕末前頃に、友人宅A家に伝わる箱とか。 今まで一度も開いた事は無い。とA家では語られる。 【開けた事がない。ではなく開いた事が無い。】だ。  A家が箱を譲り受けた時、空箱だった「らしい」。 少なくとも、友人Aの御曾祖父の記した几帳面な、 日記を信じるなら、明治期付近までは空箱だった。 そう思われていたという事だ。  この「らしい」が妙な事になったのは、友人Aの 御祖父が他界されて、仏壇を整理していた時の事だ。 仏壇の裏側から『箱』『Aの曾祖父の日記』そして、 『古証文』が出てきた事による。  はて。この箱は何だろう。   誰が見ても箱根の土産物。伝統工芸品だろう。 しかし家の者、もちろん友人のA君もなのだが、 全く買った事、身に覚えが無いという。  そこへ来て、A君の御祖母さんが、この箱の事を 聞いた事があると思い出した。話はここからである。
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