黎明

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 暁に染まる天蓋は数分後、闇夜に支配された。  まるでその光景が幻であったかの様に、世界を静寂が包み込んだ。それは、幻の暁を見た者だけが感じたのではなく、紛れもない彼ら自身が生み出した静寂。  そこから数秒の時が抜け落ち、そして理性を取り戻し始めた世界は再びざわめく。  しかし民衆の問いへの答えは、意外に早く返ってきたのだった。  翌日の新聞社の号外で広報されたのは、ノスティリア王国副都である、アネスタの『消滅』だった。  テナ・アギドハイネ・ソウル。ノスティリアの栄光のシンボルとなった筈のヒロインは、劫火の娘────滅びの元凶となった。その歳、僅か十三歳。  民は罪人に赦しの機会を与えることは無いだろう。  この世界でも、変わらない。多分、どんな世界があっても変わらない。人は急ぐ。金を求め急ぎ続ける。道で転んでしまった脱落者の頭は踏んで超えようとする。生き残った者は何に恐怖して生きるのか。何に憧れて生きるのか。栄光は雲の様に、近づけば霧の様に周りを覆うだけのものに過ぎない。盛者必衰。当たり前の様に掴めぬ雲は、いつしか人々を置き去りにしてしまう。  生命単体は、得れば失う、それだけの簡単な内容の契約をしている。それすら理解していなかった人々は得ることに執着し続け、いつしか雲の様な無形産物に対して実体があるかのような幻覚を見始めていた。だからそれを掴もうとするのだ。  平和だって、その一つ。  ────これは、人類の幻覚に全てを奪われた一人の少女と、人間だった一匹の魔獣の冒険譚。  たった一つの真実を探す為だけの長い旅。
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