第1章

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帰路。その途上。沈みゆく日に燃える町。路肩に身を寄せ、とぼとぼ歩いていく己。建ち並ぶ家々は静かに食器をカタカタ鳴らす。塀に近付けば、庭からは草の湿った香りがした。子供は喧しく騒がしく、それが些か心地よく、駆けては転びそうなほどであり、嵐のように場を去った。こんなにも歩幅は狭いのになんて早く進んでしまう。時は止まらずに進んでしまう。流転し泳ぎ戻ればいい。頑迷な規律が隘路であれば、きっと振り向く隙間さえない。斜に構えても意味がないし、世情に通じてみたところで、所詮影踏み、精々涼しくなるだけだ。ならば、帰路はひたすらに遡るべきなのだ。道を逸れれば幾らでも道はあろう。進むも勝手。戻るも勝手。不都合なことに覚悟はいるが、見えないならば注視しろ。誤らずまたは見極めず、暗き夜長に甘んじなければ、曙光は一層に確かな徴にもなろう。悩ましきは光のなんと重いこと! 煩わしく厭わしい。しかし、輝きは愛おしい。増長する影は常に光の後ろ側。ならば重いのは影だ。取り除くことはできない。光の求道者はしかしながら皆、光に死んだ。ああ、まったく悩ましいが、もっともよい接し方は既に明示されている。影にありて、常に光を臨むこと。それしかない。 ああ、まったく。ああ、まったく。ああ、まったく。己はなにを言っているのだろう。ああ、まったく。 
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