第1章

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騒ぐ風が窓を叩き、小雨が雫を垂らしていく。密室には曇った光が澱んでいる。脱落者は深層にあって、無意識の海に還ったものを再び意識の表象に映す。 泥濘は惰眠を誘因して、虚無に時は忘れ去られ、視野に至っては認識することを厭っていた。 身体は重く、感覚は分離して、すべての部位がバラバラな記憶を蒐集し続ける。 漆黒の羽が窓外に残像を見せる。漆黒の悦楽に冷笑主義者は激しい飢餓を覚える。 救難信号は波紋を残さず、難破船の影に曲線を探す。あったはずのものはすっかり融けてしまっていた。  時は流れず、室内にもう人間はいない。      
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