第1章

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花畑のなか踏み歩いて、日光に包まれ、とても穏やか。 光線に目を細め、美しく霞む景色。眩しすぎて俯けた顔には折れた花と不均一に盛り上がった土の跡。 少女の真白な靴の下敷きにされた蚯蚓が頭を覗かせ、悶えるように身体を捻る。強く踏み込むと、蚯蚓の身体はそれだけになった。 太陽を見遣り、可笑しそうに少女は笑う。 太陽を直視する少女の目はとても丸く、とても大きく、そしてとても赤かった。 光を恐れぬ者はいない。暖かで荘厳な太陽神は尊大であるがゆえに直視すると光を失う。 束縛にも似た太陽の庇護を人間が克服することは叶わない。 唯一にして、絶対の庇護を免れて、少女は死の馨しさを知っていた。直視してなお、幼き瞳には失うべき光などなかった。 傍らに咲く一輪の花。それを抜き取り、彼女はそっと芳いを嗅いでみる。赤い花弁は妖しい情熱の色を絡ませた。 少女は名をリコリスといった。     
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