第1章

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流れ清冽にして、手肌を滑る清水はその下流に於いて一片の濁りも現さず、今時分、光の屈折により水中内の輪郭を曖昧にするだけ。深い森の只中に揺れる木々が深緑を彩り、枝を伸ばして、豊かにしだれた葉はさわさわと音を立て、空を覆う枝葉模様の間隙突いて、光線は地面に疎ら模様をばら撒いた。 役立たずにも素晴らしき天蓋の中心にて、彼は生きながらにしては望むべくもなかった聖女の裸身を抱き、その起伏を認め、返らぬ鼓動に震える悦びが内側を焦がすように貫いては叫喚したいほどだ。 女の腕を持ち上げて、精巧な作り物染みた繊細な指先は水に浸かりて一層瑞々しく、伝う滴はまさしく露と消える。 安穏とした祝福に導かれ、正視叶う状態になり、送りの儀に際して、容貌にて神的な璧を解し、永遠の知覚とする。 完全なる遺骸となりて、森の廟に封じられた折り、聖女の顔に笑みこそなかったが、死者とは思えぬ柔らかな表情には確かに、安楽の心地が認められるようだった。  
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