第1章

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だが、私はどうせ後で、飼育員が餌をくれるから問題ないだろう、そんな風に安心しきっていた。  その日の夜、飼育員が餌を入り口付近に置いた。  ふん、くそまずい飯だろうが、しょうがないから食べてやるか。  私は餌に近づいた。  はっきりとした熊としての記憶がないので分からないが、まだ生まれて間もないと思われる私は体が小さく、他の熊達の妨害により餌にありつけることが出来なかった。  ば、馬鹿な。なんてことだ。これじゃあ餌が食べられないではないか。このままでは死んでしまう。  次の日も次の日も私は餌にありつくことが出来なかった。  徐々に私の体から力が抜けていった。  また死ななくてはならないのか? 嫌だ。いくら高い壁に囲まれて飼われているとはいえ、せっかくツキノワグマになれたし、死ぬのはもう嫌だ。  私の人間の時のプライドは熊になり、氷解していった。  そして私は決心した。  もう迷わないと。  私は大地を踏みしめ、すくと立ち上がった。そして餌を頂戴と何度も壁の上にいる人間に両手を使いおねだりをした。  私の元にリンゴが投げ込まれた。  すぐにそれを拾い、口へとほうばる。  ありがてえ、ありがてえ。  目から涙が零れ落ちてきた。  その後、私は世界一餌をせがむツキノワグマとしてギネスに認定されたが、餌が食べられればそんなことはもうどうでもよかった。
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