嵯峨野さやさや

7/10
前へ
/10ページ
次へ
五月雨や 色紙へぎたる 壁の跡              松尾芭蕉 落柿舎滞在は短期間であったが、いよいよ立ち去るとなると名残惜しい。しみじみ見れば壁には色紙を剥いだ跡が残っている。そんな事にも想いが止まる。「へぎたる」 は剥ぎ取るの意。 ここに来たのは晩春の頃であったが、季節は巡り五月雨に入ったようだ。芭蕉は、そう詠んだのです。 この後、京市内に6月中旬まで滞在の後、膳所の義仲寺へと戻り、そして秋には二年半ぶりに江戸へ帰ります。 作詞家が《雨の落柿舎》と表現したのは恐らく、芭蕉のこの句を意識したのだろうと思われます。 つまり、嵯峨野さやさやは、こうした歴史的・文学的な背景に基づいて作られた作品と分かるのです。 ♪藪の茶店で♪書く手紙♪ ♪きのう別れた♪あの人に♪ 茶店で手紙を書く女性の姿が浮かびます。 それも別れた相手に宛ててとは、なんとも可愛らしく、いじらしい女性です。 きっと眼に涙を湛えて書いたのでしょう。 昭和の時代には実際に、そんな女性が存在したんですね。 いや、日本女性であるならば、そうした可愛らしさは失われてはいない。現代にも受け継がれているに違いない。 そう信じたいものです。 この歌詞に昭和の時代性が出ています。メールではなく、レターです。 手紙を書ける女性は年々減って行く。 その事に、少し寂しさを覚えます。 さて二番の歌詞の後半部分です。 ♪京都 嵯峨野の♪笹が鳴る♪ ♪京都 嵯峨野の♪笹が鳴る♪ 一番の♪嵯峨野 笹の葉♪さやさやと♪の言い替え表現です。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加