第1章

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「え? お、お前……なんで」  次の瞬間、上ずりながらも思わずそう漏らしてしまった。  なぜなら、その犬がメガネを掛けているのだ。  黒縁の見覚えのあるものをだ……  訳が分からず、とりあえず警戒しつつもゆっくりと近づく。  急にガブリとされてもかなわない。 「……おいっ」  声が聞こえた。  明らかに男の声だ。  俺はギョッとして、まだ手放していない木刀を再度握りしめた。 「なにやってるんだ。こっちこい」 「だ、誰だ! どこにいる!」 「何言ってんだおめぇは、めんたまついてんのか?」  呆れた声でそれは続けた。 「昔っから肝っ玉が小さい奴だとは思ってたが……やれやれ、いくつになったんだよ」  そんなことを言われても、部屋の何処に行っても人の姿などいなかった。 「まだわかんねぇのか、仕方がねぇ奴だなぁ。目の前にいんだろうが」 「はぁ? なにいってるんだ」  視界を巡らしても、犬しかいない。 「だからいるだろう」 「どこにだ」 「目の前に」 「……は?」  そういったときには、ずいっとメガネを掛けた柴犬の顔がアップになって写っていた。
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