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「え? お、お前……なんで」
次の瞬間、上ずりながらも思わずそう漏らしてしまった。
なぜなら、その犬がメガネを掛けているのだ。
黒縁の見覚えのあるものをだ……
訳が分からず、とりあえず警戒しつつもゆっくりと近づく。
急にガブリとされてもかなわない。
「……おいっ」
声が聞こえた。
明らかに男の声だ。
俺はギョッとして、まだ手放していない木刀を再度握りしめた。
「なにやってるんだ。こっちこい」
「だ、誰だ! どこにいる!」
「何言ってんだおめぇは、めんたまついてんのか?」
呆れた声でそれは続けた。
「昔っから肝っ玉が小さい奴だとは思ってたが……やれやれ、いくつになったんだよ」
そんなことを言われても、部屋の何処に行っても人の姿などいなかった。
「まだわかんねぇのか、仕方がねぇ奴だなぁ。目の前にいんだろうが」
「はぁ? なにいってるんだ」
視界を巡らしても、犬しかいない。
「だからいるだろう」
「どこにだ」
「目の前に」
「……は?」
そういったときには、ずいっとメガネを掛けた柴犬の顔がアップになって写っていた。
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