プロローグ

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一瞬前の悲愴な表情が嘘のような、完璧な微笑。そのどちらも、彼の年齢にはそぐわない。 「生き返ったんだね、また」 そしてベッドから降りた私も、自身の年齢にはそぐわないであろう冷徹な表情で彼を見つめ返し、言う。 「ええ。嬉しい? それとも残念?」 「秘密、だよ」 笑みはそのまま、眉をハの字にした彼はゆっくりと私に歩み寄り、何百、何千年も前から生き残っている簡易な【和服】をはだけた。 しゃら、と布が床に落ち、白い肌が顕わとなる。 「今回の犠牲者は?」 「15人、かな。毎回、奴らの【ノルマ】は増えたり減ったりしているみたいだ」 「そう」 15人。また、校舎裏の墓標が増えるのだ。唇をぎり、と噛む。 「【生徒会】は、犠牲者0だよ」 「……戦果は」 「不明。例によって、奴らはどれも自爆してしまった」 「そう、なの」 事務的な報告を終え、彼は改めて私の裸身を眺める。 裂傷も打撲痕も、もちろん胸にぽかりと空いたはずの穴も。何も残ってはいない。よく言えばスレンダー、悪くいえば発育不良な身体を、彼に晒す。 「うしろ向いて」 「ん」 もう五度目になるだろうか、この確認作業も。私も彼もすでに、照れなどという感情は捨て去った。 しばらく時計の針の音だけが室内に響き、やがて彼がそっと言う。 「……うん。カナコは今日も、“生きて”るよ」 何度も。 私は死に、そして生き返ることを繰り返す。 この戦いが終わるまで。 「……次の【サイレン】は、いつだろうね」 「さあ。でも」 彼に痛いほど抱き締められながら、思い出すのはあの日のこと。 「次こそ、壊してやるわ。――この檻を」 この桜環(おうわ)学園に初めて【サイレン】が響き渡り、愛しい日常が崩れ去った――私、小城(おぎ)カナコ13歳の誕生日のことだった。
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