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声が、聞こえた。
もう何度も、何度も反芻した言葉。それを唱える魔女のぎらつく目……と思っていたそれは意外なほど澄んでいて、私の心臓を再び動かすには十分だった。
――お前は選ばれし者だ。この腐った学園を救うんだ!
覚醒した。薄い胸に手をあてる。うん、心臓はちゃんと動いている。敵にごっそり持っていかれたはずのそれは、私という化け物の中で正常に鼓動している。
目の前には見慣れた木目の天井。むくりと身を起こすと、やはり自室のベッドに寝かされていた。かいがいしいものだ。女子の部屋に入るために、能力を使って無駄に体力を浪費するのは止めてほしいと何度言っても聞かない。
必要最低限の物しか置かれていない、殺風景な部屋を見回す。ついこの間まで、相部屋の子の頑張りでぬいぐるみや小物で可愛らしく飾り立てられていたのが嘘みたいだ。
「……ケイくん」
ぽつりと零れたのは、呼ばなくなって久しい、幼なじみのあだ名。
あの日……自分の身体が変わってしまった、正確には変わっているのだと認識させられたあの日から、私はずいぶん変わったと彼は言う。
仕方ないのだ。私は決めたのだから。
煮えたぎるような感情が、脳を侵していく。
必ず。必ず、こんな学園壊してやる、変えてやると。
私と同じように、感謝し信じ続けた絶対の存在に裏切られ殺戮された、あるいはいまだその脅威にさらされ続けている、この学園の生徒達を救うと。
そのためなら、私は――!
「入るよ、カナコ」
ノックに続いてそんな声がドアの向こうから掛けられ、私はどうぞと返事をする。
すう、とドアを物理法則に反して通り抜け室内に現れた相手は、私を見るとまだ幼さの残る顔立ちを刹那、痛ましいくらいに歪め。それから朗らかに笑った。
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