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荒木家の朝食には、夫・功が作った朝食と、妻・依代が入れた紅茶が並ぶ。
「このパン、美味しいね」
妻の依代は、夫が作った朝食を、にこにこと美味しそうに食べる。
ちなみに依代は、あまり料理をしない。
功がさせないというのもある。
名家の令嬢として育てられた依代は、当時屋敷付きの主治医であった功にさらわれるようにしてここに来るまで、包丁という物をじかに見ることのない生活を送ってきた。
さらに言えば、依代は生まれつき体が弱い。
いかに元気そうに見えても、外出もままならない身の上なのである。
そんな依代に極力無理をさせたくない功は、家事のほとんどを己が引き受けている。
元々独り暮らしが長かったせいで家事は一通りこなせる。
さらに言えば、依代がこのマンションに来てからは家事に磨きがかかった。
依代に不自由な生活をさせたくない、功の努力の賜物である。
「そうか。もっと食べるか?」
勤務先の病院では、笑うことなどごく稀なクールインテリの荒木功であるが。
「ううん。もうお腹いっぱい。
御馳走さま、ありがとう」
「お粗末さまでした」
休日の朝、にっこりと笑う依代を眺めて、始終幸せそうな笑みを浮かべている。
要するに、ベタ惚れ。
この夫婦がいかにしてこの平和を手に入れたのかという波乱万丈な話はまたの機会に。
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