第1章

1/64
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/64ページ

第1章

そこには、冷却スプレーのノズルの前にアルコールランプの火をかざし、目の前の吸血蝉に向かって炎を噴射している沙耶先生の、魔法使いのような姿が映し出されていた。 黒焦げになり、空中で四散する吸血蝉が見えた。 怯えきった沙耶先生の、死に物狂いの悲鳴が廊下にまで響く。 「やめてぇ・・・!来ないでよぉぉぉおおっ・・・!!!」 モニタの彼女は、火炎放射を続けながら、少しずつ窓辺に背中を近づけていった。 保健室の惨状を廊下からうかがっていたらしい翔吾が、沙耶先生に向かって叫んだ。 「沙耶先生、だめだ!そっちは!」 モニタを観ていた廉もまた叫んだ。 「やめろ、沙耶先生!」 カーテンを背にした沙耶先生。 その白衣の裾に、真っ黒な蝉が二匹止まった。 沙耶先生は、とっさに、その吸血蝉に向かって火炎放射をした。 2匹の吸血蝉が炎に弾かれ、黒ずみになった。 「いやぁあああああ!!!」 自らの手で、自分の白衣に炎を燃え上がらせてしまった沙耶先生は、足をもつれさせて窓際に身体を叩きつけた。 その弾みで、うずたかく積まれていたアルコールランプが、音を立てて崩れ始めた。 「あついぃ・・・、たすけてぇ!!!」 翔吾が、10センチほどしか開かなくなった保健室の扉にタックルを続ける。 扉はびくともしない! 沙耶先生の足元に次々に落ちる、何十個ものアルコールランプが、モニタの中で次々に床に激突してガラスが割れ、沙耶先生の足元や白衣に、その中身が降りかかる。 「ぎゃぁあああああああ!!!」 「沙耶先生ぇぇぇぇええ!!」
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!