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宋一は晴れやかな顔になり、竹夫の隣に座った。
「おばあちゃん、天気もエエし、散歩行く?」
姫子が時子の耳に顔を寄せ、囁くと、時子は穏やかに微笑みながら、姫子をジーっと見つめ、ゆっくりと頷いた。
「おじいちゃん、おばあちゃんを車椅子に乗っけるの手伝って。
あ、宋一おじさんも」
姫子は中学生らしい、ういういしい笑顔を見せた。
その孫を時子は、相変わらず微笑みながら目で追っていた。
「おう、判った」
オッサン二人は「よっこらしょ」と立ち上がった。
宋一は時子を抱えながら
(そっか、多分、おばさんが、こうなってもうて、当時の意識が全く無くなったいま、姫子の中の血の時子オバサンに対する復讐感情や敵対心も消え、感傷も自然と癒えたっちゅう訳やな。
ま、正真正銘、姫子はオバサンの孫なんやし。
ただ、卓也のほうは、過去の復讐を為し遂げたってことになるんやろなぁ。
ん、そや、絶対、俺の思った通りや。
もうこれで過去のことは無くなったんや。
だーれも真相を知る者は居らへんねん。
俺さえ黙っとったら)
等と、己の勝手な解釈に酔っていた。
外に出ると時子は、おてんとさんを仰ぎ、心地良さそうに目を細めた。
「そこの公園行ってくるわ。
ほな、おばあちゃん、車椅子、動かすでー。
大丈夫やな」
姫子はゆっくりと車椅子を押して行った。
それを、酒に酔って真っ赤な顔の竹夫と、持論に酔い、みょうに納得している宋一は見送っていた。
血の根 完
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