第1章

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宋一はあることを思いだした。 (さっきおばさんは) 時子は宋一に 「サカキ・・・あのサカキが・・・」 と言った。 あのサカキと言うからには、知り合いか面識のある相手と言うことになる。 普通なら 「サカキと言う人(男)。 または、咲代はサカキと呼んでいた」 等と言う 表現を使うのではないか。 また、サカキと、うなされていたことも、 まさか娘の浮気の相手のこととも思えない。 時子は 娘の浮気を知ったとしても、案外 「ばれんようにやりや」 などとアドバイスしそうな楽天的な性格である。 そのおばさんが、娘の相手の名を上げて、うなされるとは、到底思えないのである。 「やはり俺が推測したとおりなんか」 (そうだとしたら、おばさんが人殺しだと判ってまうやんけ) 宋一の気持ちは揺れ動き、ブレーキに軽く足を乗せた。 (どないしたらエエねん・・・・ いや、もう、後戻りはでけへん) 宋一は再度、アクセルを開いた。 なわて光署に入ると、駐車場の白線をまたぐようにして、荒々しく車を停めた。 宋一は急いで車から降り、署内に入って行った。 事務処理をしていた数人の警察官が、こいつなんやねん、というような目を向けたが、そんなことを気にかける暇もなく、近くにいた職員に広野刑事を呼んで貰った。 少し待っていると広野が目の前の階段を降りてきた。 「おお、宋一っちゃん、毎度」 広野は高い位置で手を振り、ちょっとピッチをあげ近付いて来た。 1度しか会ってないのに「ちゃん」付けで呼ばれてしまい、ちょっと照れた。 (どんだけフレンドリーデカやねん) と思いながらも 「どーも、あのせつはありがとーございました」 と頭を下げた。
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