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不倫殺人事件から2年が過ぎた。
時子は、うつ病を発し、さらに1年後、重度のアルツハイマーに犯された。
会話もままらなくなり、ボーっとしている時間が多くなった。
歩けることは歩けるのだが、手を引いていないと危ないので、たまに外出する時は、車椅子を私用していた。
家の中では常にベッドで過ごしていて、動くことはない。
仕事が忙しくて、なかなか寄れなかった宋一は、久しぶりに野坂家を訪れた。
(介護してる叔父さんも大変やろなぁ。
倒れなければエエんやけど、それも心配や)
「こんちは~」
宋一はいつものように玄関から入り、居間の戸を開けた。
すると目の前に信じられない光景が飛び込んで来た。
電動折りたたみ式のベッドに座っている時子の横に、中学生になった姫子が、中腰になって、祖母にご飯を食べさせているのである。
「おばあちゃん、はーい、あーんして」
姫子がスプーンを持って行くと、時子は幼児のように大きな口を
「あ~ん」
と開けた。
縁側にステテコ姿の竹夫が、ニヤニヤしながら、昼間っから缶ビールを手にしていた。
「こ、これは、どないなってんねん」
宋一が呆気に取られていると竹夫が
「どや。
こうやってな、姫子はな、ちょくちょく、おばあちゃんの世話をしに来てくれんねんで」
と、どや顔を見せた。
「いつからなん?」
「2ヶ月ほど前からかなぁ。
せやけど、それ以前からおばあちゃんの心配はしてくれててんけどな」
「そうなんやー。
へぇー」
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