第1章

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11 不倫殺人事件から2年が過ぎた。 時子は、うつ病を発し、さらに1年後、重度のアルツハイマーに犯された。 会話もままらなくなり、ボーっとしている時間が多くなった。 歩けることは歩けるのだが、手を引いていないと危ないので、たまに外出する時は、車椅子を私用していた。 家の中では常にベッドで過ごしていて、動くことはない。 仕事が忙しくて、なかなか寄れなかった宋一は、久しぶりに野坂家を訪れた。 (介護してる叔父さんも大変やろなぁ。 倒れなければエエんやけど、それも心配や) 「こんちは~」 宋一はいつものように玄関から入り、居間の戸を開けた。 すると目の前に信じられない光景が飛び込んで来た。 電動折りたたみ式のベッドに座っている時子の横に、中学生になった姫子が、中腰になって、祖母にご飯を食べさせているのである。 「おばあちゃん、はーい、あーんして」 姫子がスプーンを持って行くと、時子は幼児のように大きな口を 「あ~ん」 と開けた。 縁側にステテコ姿の竹夫が、ニヤニヤしながら、昼間っから缶ビールを手にしていた。 「こ、これは、どないなってんねん」 宋一が呆気に取られていると竹夫が 「どや。 こうやってな、姫子はな、ちょくちょく、おばあちゃんの世話をしに来てくれんねんで」 と、どや顔を見せた。 「いつからなん?」 「2ヶ月ほど前からかなぁ。 せやけど、それ以前からおばあちゃんの心配はしてくれててんけどな」 「そうなんやー。 へぇー」
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