とある遺書

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これから自殺すると言うのに、遺書もないとは寂しい限りではないだろうか。 書くことも特にないのに、それを書こうと試みると言うのは、なんと言うか、ありていに言って見栄張りのように思われるかもしれないが、しかし一度でいいから遺書を書いてみたいと、私は常日頃から思っていたのだ。 とは言え、自殺理由について滔々と語ることが、遺書の役割だとは思えない。私が死ぬ理由など面白いものではないし、そもそも語ったところで私にしか理解できないものだろうと思う。 と言うより、そもそもまともな、真面目な、真っ当な理由が存在しているのかすら危うい。私からすれば、それは死活問題(自殺なのだから、文字通り死活問題である)であるが他人からすればどうでもいいことこの上ないであろうことは想像に難くない。 だが、死ぬ理由を一切書かないと言うのも、遺書としてどうなのだろうと思わないわけでもない。 とは言え、長々と自殺理由を語るのも詰まらない話だ。なので、ここは簡潔に済ませようと思う。 私は死にたいから死ぬのである。 これ以上に簡潔な答えがあるだろうか・・・・・・、もっとも、この遺書が私の死後、誰かに読まれることがあるのかも不明であるが故、簡潔にした意味も薄いのかもしれないが。 だが、別れの挨拶と言うものは大切である。それも、この世との別れだと言うのだから、それはもう大切なものだろう。死の理由よりも、そっちを大切にした方が、この遺書とて本望だろうと思う。 だが、別段別れを惜しむわけでは無く、極、極々軽い気持ちで、私は自殺を決行しようと思う。 願わくは、失敗しないことを祈る。 それでは、世界にさようなら。 私は一足先に終わる。
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