堕落を求めて三千里

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理解できていたわけがない。私にとって自分の不死性はそもそもが未知の領域だ。傷が治る速度、灰化までのタイムラグなんかは経験則としてわかってはいても、『なぜそうなのか』という理由を問う分野については何もわからない。 神様が私に下した、死ねないための罰。生き地獄のための不死性。 特別頭のいいわけでも直観に優れているわけでもない私は、その構造を何一つわかってはいないのだ。 だから、そのアンドート・バルバデッドの言葉を聞いて、はじめてその構造に目を向けることになった。 不変の不死者。 進まない。留まる。停滞している。止まっている。 なるほど、確かにそうなのかもしれない。そうした私の不死性を表現しようとするならば、確かに不変という言葉が的確なのかもしれない。 ならば。 だとしたら――私は、私をどうやって殺せばいいのだろうか。 「どうやって殺すのがいいんだろうなぁ、おい」 別に口に出してその考えを言ったわけではなかったけれど、私の思考と同じようなタイミングで、アンドート・バルバデッドはそういった。その口元はにやつくように歪んでいたけれど、反面、目つきは鋭く、その眉根は不機嫌そうに寄っている。 「変わらない、ってことはどこかしら、一つのタイミングでお前の存在は固定されている、ってことだ。だが、メスで身体は切り裂ける。一瞬でも身体はバラバラにできる。固定されたその一点に戻ろうという作用は確かに存在するが、それは瞬きをする間に行われるってわけじゃねぇ」 アンドート・バルバデッドは、喋りながら、ポケットから大量のアンプルを出しては、地面に捨てていく。その様は、なんというか、こう、あれである。劇場版で必要な秘密道具が見つからないときのドラえもんを彷彿とさせる。 「ならどうする? 机上の空論なら思いつく。戻るために固定されたその一点を――上書きすればいい。綴目しなびが死んだその後に。だが具体的にそれはどういうことになる? どういう現象だそれは? そもそもこの女の不死を……不変を成立させている現象はどういう理屈を持っている? こいつを殺すには――それを分析するしかねぇだろうな」 そう言って、アンドート・バルバデッドは高らかに笑う。 「ははははっ――面白くなってきた。研究のし甲斐があるぜ。そのためには……とりあえず、生け捕りにして、色々実験するのが手っ取り早いか」 それは困る。多分その実験って言葉、ルビで拷問って振ってあってもさほど差が生まれないようなものだろうし。仮にその実験で、私の不死性を無効化する方法が分かったとしても、それで私が殺されてしまうのであれば何の意味もない。 私は殺されたくない。 私は自殺したいのだ。 だから、私は、再びゆっくりと、独絶丸を構えて―― 「ははははっ……は?」 ――アンドート・バルバデッドの高笑いが止まった。
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