不死殺し

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きょろきょろと辺りを見分してみると、近隣の肉屋の、屋根付近に設置された看板に突き刺さっていた。ごそごそ動いているけれど、看板から抜け出すことが出来ず戻ってこられないようだ。 こいつは困った。どうしよう、右脚無くしちゃった。 右脚がないと、走って逃げることが出来ない。さすがにこんな事故に巻き込まれて、時間とか割とか食うの嫌だぞ。 とりあえず、左脚だけでも使って起き上がって・・・・・・、と、そこで気が付く。 「・・・・・・、右腕もない」 何て勝手な身体なんだ! 勝手にどっか行くなよ! 迷子の達人かよ! より正確に言えば、右胸の肋骨をぶち壊しにする感じで、胸の辺りからごっそり肉とか皮膚とかが無くなっていた。文字通り根こそぎ、って奴である。 ぱっくり開いた身体から、肺とか心臓とか綺麗にぶらりとぶら下がっていて、おそろしいことになっている。あと血液の流出が半端じゃない。 よくよく周りを観察していると、私の右腕は倒れている車の陰に押しつぶされるようになっていた。位置関係的に、右側から衝突を食らったが故だろう。 しかし行商人さんから貰ったローブは、それでも破れていなかった。ダメージは結構喰らってしまっているようだけれど、破れたりはしてない。 そして血液も、その黒色の繊維に吸収されるかのように溶け込んでいて、目立たない・・・・・・、と言うか、一見して血に塗れているような気がしない。 ・・・・・・、もしかしてこのローブ、結構な代物なんじゃないだろうか。 だがそれは現在問題ではない。問題は、今の私が右手右脚がなく、ほとんど身動きの取れない状態にあることだ。 怪我の度合いが半端じゃない所為か、痛みこそ殆どないけれど、物理的に動くのが困難である。芋虫のように這って動いてもいいけれど―――、と、私は周りを見渡す。 通行人の方々が、一様に私や事故現場へと視線を向けている。まずい・・・・・・、まずいぞ。 灰化が始まるまで、あと四十秒ほどだろうか。そうなると、私は大衆市民の皆様の眼前で、不死の化け物としての特性を露わにしてしまうことになる。 そうなった場合、どうなるか。 最悪実験動物、いつの時代も不死は王様のタスクであることから、その研究材料として用いられてしまう可能性も高い。 だから、あと四十秒の間に、人目につかないところまで私を隠す必要がある。私はローブのフードを深くかぶって、とりあえず顔を覚えられないように心掛けた。
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