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そして匍匐前進。
しかし右半身が殆ど使えないのは痛い。せめて右と左でバランスよく身体が持って行かれていたら良かったのに・・・・・・、ああ、駄目だ、圧倒的に時間が足りない。
匍匐前進中に、その事実を悟る。
残り―――、十秒残っているだろうか。周りの野次馬さんたちの視線が痛い。突き刺さる。心に痛い。痛いのはむしろ手足を無くしている身体のはずなんだけれど。
ええい、うるさい。ばーか、きゃーきゃー騒いでいるんじゃない!! 人が轢かれたのがそんなに楽しいか!! 珍しいか!! ・・・・・・、まあ珍しいだろうけれど。
中にはパシャパシャと、携帯のような機械で写真を撮っている人も見受けられた。待て待て、写真なんか撮ってんじゃねーよ。肖像権と言う言葉を知らないのか。
私は顔が映らないように心掛けたが、しかし映ってしまったかもしれない・・・・・・、そうなった場合、その上で身体が灰化から再生してしまった場合、顔が割れて本格的に不味いことになりかねない。
と、にかく、何とか人目の付かないところまで・・・・・・、
「・・・・・・、あ」
ああ、ああああああ、
駄目だった。ぐんぐんぐんぐん、どんどん再生していく私の手足。空気の読めない不死性。再生能力。
せめて二、三分くらいとどめておけよ!! 一応仮死化も使っていたけれど、この重症じゃあそこまで長期間とどめておくことはできなかったらしい。
身体が治っていく私を前に、観衆皆さん大きく口をあけてぽかんとしている。写真を撮っていた若造(多分私より年上だけれど)も動きを止めてじっとこっちを見ていた。
「・・・・・・、・・・・・・」「・・・・・・、・・・・・・」「・・・・・・、・・・・・・「・・・・・・「・・・・・・「・・・・・・、あ、
「・・・・・・、あはは・・・・・・」
沈黙が交差するなか、私の乾いた笑い声がむなしく響いた。
手足は治った。傷は完治、心の傷は癒えないけれど問題ない。観衆皆様が気を取り直す前が勝負だ。
私は凄まじいまでのスピードで立ち上がって、裏路地へとこそこそ逃げ込んだ。
まるでゴキブリのような有様だ、と自虐することに躊躇のないレベルでの素早さであった。
蝶のように舞い、蜂のように刺し、ゴキブリのように逃げる。それでいいじゃないか。それこそが最強だ。
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