不死殺し

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隣のトトロと言えば、巷では「トトロは死神」とかそんな都市伝説が流れているようだけれど、そんな馬鹿な話があるか。あれほど可愛らしい生命体が死神であるわけがない。 毛皮にくるまれた死神ならば、むしろ私的にウェルカムと言った感じだ。是非とも自殺するから連れて行って欲しい。 頬に風を浴びながら、そんなことを考える。 そして走ること三十分―――、三十分、くらいだと思うけれど、時計がないので正確ではない。もしかすると一時間後だったかもしれないし、もしかしたら十分くらいで着いたのかもしれない。 ―――、外見は、二階建ての民家に近かった。 違うところと言えば、玄関がいかにも〝お店風〟に改築されていて、照明がいい感じにモダンで、看板が上がっているところだ。 看板には「宿・ワーカホリック」と言う、なんだか気の沈む店名が行書体で書かれていて、大々的にここが宿屋であることをアピールしている。 しかしワーカホリックって・・・・・・、大丈夫か? 確かに接客やサーヴィスは凄そうな店名ではあるけれど・・・・・・。 「・・・・・・、まあいいや」 教えられた店名と、店の外観。それに目の前の建物は完全に一致していて、ここが噂の宿屋であると私は確信する。 噂。 噂の・・・・・・、と言うほど噂ではないけれど、私に情報をくれた親切な通行人曰く、ここの宿屋の看板娘さんは―――、かなりの情報通のようらしい。 知る人ぞ知るマイナー知識から、ご近所の噂まで、いろんな噂を仕入れていると言う娘さん。 ならば―――、と、私は思ったわけだ。 その人ならば、不死身の殺し方を知っているかもしれない。あとついでに、宿に泊まれるならば言うことはない。・・・・・・、より正確に言えば、宿に泊まることがメインであって、不死殺しの方法の方がついでなのだが。 まあそんなものはどっちでも一緒だ。 すなわち一石二鳥と言う奴である。飛ぶ鳥を落とす勢いなのである。 私は大きな硝子がはめ込まれた扉へと手を伸ばし、ゆっくりと開く。開いた瞬間、どことなくノスタルジーを刺激する匂いに包まれた。 懐かしい感じ、と言うか、日なたに晒しておいた布団のような匂いである。 私は店内へと踏み込んで、受付のようなカウンターへと向かう。カウンターには人がおらず、銀色のベルが鎮座していた。これを鳴らして呼べ、と言うことなのだろう。
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