1497人が本棚に入れています
本棚に追加
隣のトトロと言えば、巷では「トトロは死神」とかそんな都市伝説が流れているようだけれど、そんな馬鹿な話があるか。あれほど可愛らしい生命体が死神であるわけがない。
毛皮にくるまれた死神ならば、むしろ私的にウェルカムと言った感じだ。是非とも自殺するから連れて行って欲しい。
頬に風を浴びながら、そんなことを考える。
そして走ること三十分―――、三十分、くらいだと思うけれど、時計がないので正確ではない。もしかすると一時間後だったかもしれないし、もしかしたら十分くらいで着いたのかもしれない。
―――、外見は、二階建ての民家に近かった。
違うところと言えば、玄関がいかにも〝お店風〟に改築されていて、照明がいい感じにモダンで、看板が上がっているところだ。
看板には「宿・ワーカホリック」と言う、なんだか気の沈む店名が行書体で書かれていて、大々的にここが宿屋であることをアピールしている。
しかしワーカホリックって・・・・・・、大丈夫か?
確かに接客やサーヴィスは凄そうな店名ではあるけれど・・・・・・。
「・・・・・・、まあいいや」
教えられた店名と、店の外観。それに目の前の建物は完全に一致していて、ここが噂の宿屋であると私は確信する。
噂。
噂の・・・・・・、と言うほど噂ではないけれど、私に情報をくれた親切な通行人曰く、ここの宿屋の看板娘さんは―――、かなりの情報通のようらしい。
知る人ぞ知るマイナー知識から、ご近所の噂まで、いろんな噂を仕入れていると言う娘さん。
ならば―――、と、私は思ったわけだ。
その人ならば、不死身の殺し方を知っているかもしれない。あとついでに、宿に泊まれるならば言うことはない。・・・・・・、より正確に言えば、宿に泊まることがメインであって、不死殺しの方法の方がついでなのだが。
まあそんなものはどっちでも一緒だ。
すなわち一石二鳥と言う奴である。飛ぶ鳥を落とす勢いなのである。
私は大きな硝子がはめ込まれた扉へと手を伸ばし、ゆっくりと開く。開いた瞬間、どことなくノスタルジーを刺激する匂いに包まれた。
懐かしい感じ、と言うか、日なたに晒しておいた布団のような匂いである。
私は店内へと踏み込んで、受付のようなカウンターへと向かう。カウンターには人がおらず、銀色のベルが鎮座していた。これを鳴らして呼べ、と言うことなのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!