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「どうだった?」
ロビーで待っていた奈々華と合流する。
「ああ、ビンゴだな」
「一人目で当たりなら、今回はすぐ片付くかもしれないね!」
仕事が早く終わりそうで笑顔になる。
「だといいけどな」
龍騎は少し複雑な顔をした。
「とにかく、居場所は掴んだからいつでも幽玄に連れていけるだろう。ただ万が一、逃げられる可能性を考えて奈々華はここで待機な」
「えー、お兄と一緒にいたい」
別行動に抗議する奈々華の頭を撫でてやる。
「頼むよ、お前にしかできないことだ」
「っ・・・」
たまに見せる真摯な表情にどきりとする。
龍騎は無意識だろうが、奈々華はこういったギャップに弱い。
「わかったよ・・・」
顔をふいと背ける。
そんな様子を見て、龍騎はいつものように笑顔を見せた。
「ありがと。何か動きがあったら連絡してくれ!」
そう言い残し、龍騎はマンションを去った。
「ふぅ」
残された奈々華はソファーに座りなおす。
ふと、龍騎との出会いを思い出していた。
「あの頃の私は誰も信じられずにいた。それをお兄は救ってくれた」
研究対象としてしか扱われていなかった当時の奈々華は人間が嫌いだった。
周りにいる大人たちは敵にしか見えていなかったそんな時、龍騎が現れた。
まだ龍騎は魔法をオーバーストしていなかったのだが、幽玄の研究者で意霧の親友だった龍騎の父親に連れられて、偶然ラボを訪れていた。
片親だったことで学校のクラスメイトと馴染めていなかった龍騎は、単純に友達がほしかった。
そして奈々華に声をかけたわけだが、奈々華にとって、無垢に話しかけてくる龍騎の存在は珍しいと感じるものだった。
二人はそれから何度となく会い、交流する中で奈々華は龍騎に惹かれていった。
「お兄・・・」
いつしかお兄さんと呼んでいた。
そして二人が本当に兄妹のようにお互いを思うようになり、それゆえ龍騎はある事件を起こしてオーバーストしてしまったのだ。
「ごめんね」
そのことを奈々華は責任に感じている。
龍騎が普通の生活を望めば望むほどに。
ただ今は、兄想いや贖罪の気持ちだけではなくなっている。
「気づいてよ、ばか・・・」
鈍い龍騎にため息が出るのだった。
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