呪われし兄妹編

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「お兄、ちょっと待ってよ!」 「早くしろー、どんだけ待たせるんだよ」 玄関外で待つ彼の名は神崎龍騎(かんざきりゅうき)。 七月になってずいぶんと暑くなった日差しが龍騎を照らす。 水曜日、午前9時。 垂れてくる汗をぬぐいつつ太陽を睨んでいると、少女が家の中から出て来た。 「女の子は支度に時間がかかるんだって何回言えば分かるの」 遅れて出てきた彼女の名は神崎奈々華(かんざきななか)。 何度言っても学習しない兄に苛立ちを見せる。 「俺は早く行きたいの」 「早く行ったっていつもと変わんないよ」 急ぐ龍騎に呆れた視線を向ける。 「いいじゃん、さっさと終わらせたいし」 「なんでよ?」 「そりゃ、奈々華とゆっくりしたいじゃん」 予想外な答えにどきりとする。 「もう、ばか・・・」 照れた表情を見られたくないので、顔を伏せる。 兄の龍騎は今年で17歳、妹の奈々華は13歳になる。 しかし二人は学生ではない。 本来なら平日のこの時間であれば、子どもは学校に行っているはずだ。 「今日はどこへ行くの?」 目的地を知らない奈々華は、隣を歩く龍騎に問う。 「研究所(ラボ)だよ」 うんざりした表情で答える。 龍騎はラボへ行きたがっていないことを察した奈々華もまた、同じような表情をした。 「また呼び出しなわけ?」 「そゆこと。新しい事件だと」 「はぁー、疲れるわね」 大きなため息をつく二人。 彼らが学校に行くことは許されていない。 その理由は、二人は「普通の人間」ではないからだ。 「こんな力がなけりゃ、今頃高校生活をエンジョイしてて、彼女もできて青春を謳歌する日常を送ってたはずだってのによ」 「大丈夫よ、お兄なんかモテるはずないから」 奈々華はにやりと笑う。 「ちょっと可愛いからって調子のんなよなー」 「かっ、可愛いって・・・」 どきりとする奈々華の様子に龍騎はまるで気づいていない。 そもそも二人は本当の兄妹ではない。 出会ったのは4年前、場所は今向かっているラボの中。 そのラボが研究しているのは・・・。 「俺たちには普通の日常はないもんな」 「しかたないよ、だって私たちは普通じゃない。『魔法』が使えちゃうんだから」 そう、二人が目指しているのは『魔法』研究所、「幽玄(ゆうげん)」なのだ。
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