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何時からだったかな、僕がこの森で暮らし始めたのは・・・。
そう、確かあれは僕が物心付くようになって間もない頃にやって来た。
とても美しい彼は、僕を迎えに来たと言い、その綺麗な手を差し出した。
少し哀しそうなその瞳に、吸い込まれそうになったのを覚えている。
母さんも、父さんも何も言わなかったな。
何も言えなかったのかもしれないし、何も言わなかったのかもしれない。
母さんは何か言いたそうにしてたけど、父さんは黙ってそれを制した。
回りの大人たちは美しい彼を『鬼』と呼んだが、彼はそれを聞いても哀しそうな顔をするだけだった。
優しく僕を抱き上げて、それからゆっくりと歩き出した彼を止めるものはいなかった。
彼、は長い髪をしていた。
彼、は銀の髪をしていた。
彼、は紅の瞳をしていた。
彼、は少しも笑わなかった。
彼、はその美しい瞳に哀しみを称えるだけで表情に変化はなかった。
だが、僕は知っている。
彼が誰よりも優しいことを。
彼が誰よりも繊細なことを。
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