第1章

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 キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン  「授業お終い…と」  オレは、高校三年生の早川哲也(はやかわ てつや)。今日の学校の授業が終わって、帰る支度を始めた。  「ん?」  ケイタイが鳴って、オレはケイタイを取り出した。  着信表示を見る。  あれ? 美鈴さんだ。  桐原美鈴(きりはら みすず)さんは、オレがバイトしている“カフェ・むささび”の店長代理で、ゆりえさんのお姉さんでもある。  以前、美鈴さんのことを「お姉さまは魔女」と言っていた人がいた気がするけど、誰だったかな?  それにしても、なんで美鈴さんが? オレ、今日はバイト休みのはずだけど……。  ハッ。  まさか、昨日の仮病がばれた!?  「もしもし?」  「あ、哲也君? 急にごめんなさい!」  なんか、珍しく焦っているような。  「風邪はもう平気?」  「え? ええ、まあ。はは……」  「そう、よかったわ。……あのね、哲也君、今日の午後はあている?」  「……別に用事はありませんけど」  「実はお願いがあるの」  なんか嫌な予感。  「なんですか?」  「理由は後で話すけど、哲也君、今日入ってくれないかな?」  やっぱりそうか……。  あんまりバイトする気分じゃないけれど。でも、昨日サボっちゃってるし。美鈴さんの声には妙に切迫感が感じられるし。  「分かりました。いいですよ」  「ありがとう! 助かるわ。あとでなでなでしてあげる」  なでなで、か。  少しは癒えるかな、この前の失恋の痛手?……って、だらしないオレ。  「じゃ、今学校なんで1時間くらいで行きます」  「本当にありがとう。それじゃあ、待ってるから。……あ、なるべく早めに来てくれると嬉しいわ」  「はあ……」  最後の最後で、さりげなく命令っぽかったところが、魔女たるゆえんか。それにしても、うーんバイトか……。  ま、ひとりでいてもグチグチと考え込んじゃうだけだし、逆にいい気分転換になるかも。  そうと決まれば、さっさと帰るか。  オレは教室を出た。  美鈴さんは焦っているみたいだった。ちょっと急いだ方がいいかも知れない。  階段を1段飛ばしに下りていく。    オレはカフェ・むささびにたどり着いた。このオリエンタル風味に溢れたオープンカフェが、“カフェ・むささび”だ。  店のネーミングはともかく、味は保証する。
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