0人が本棚に入れています
本棚に追加
キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン
「授業お終い…と」
オレは、高校三年生の早川哲也(はやかわ てつや)。今日の学校の授業が終わって、帰る支度を始めた。
「ん?」
ケイタイが鳴って、オレはケイタイを取り出した。
着信表示を見る。
あれ? 美鈴さんだ。
桐原美鈴(きりはら みすず)さんは、オレがバイトしている“カフェ・むささび”の店長代理で、ゆりえさんのお姉さんでもある。
以前、美鈴さんのことを「お姉さまは魔女」と言っていた人がいた気がするけど、誰だったかな?
それにしても、なんで美鈴さんが? オレ、今日はバイト休みのはずだけど……。
ハッ。
まさか、昨日の仮病がばれた!?
「もしもし?」
「あ、哲也君? 急にごめんなさい!」
なんか、珍しく焦っているような。
「風邪はもう平気?」
「え? ええ、まあ。はは……」
「そう、よかったわ。……あのね、哲也君、今日の午後はあている?」
「……別に用事はありませんけど」
「実はお願いがあるの」
なんか嫌な予感。
「なんですか?」
「理由は後で話すけど、哲也君、今日入ってくれないかな?」
やっぱりそうか……。
あんまりバイトする気分じゃないけれど。でも、昨日サボっちゃってるし。美鈴さんの声には妙に切迫感が感じられるし。
「分かりました。いいですよ」
「ありがとう! 助かるわ。あとでなでなでしてあげる」
なでなで、か。
少しは癒えるかな、この前の失恋の痛手?……って、だらしないオレ。
「じゃ、今学校なんで1時間くらいで行きます」
「本当にありがとう。それじゃあ、待ってるから。……あ、なるべく早めに来てくれると嬉しいわ」
「はあ……」
最後の最後で、さりげなく命令っぽかったところが、魔女たるゆえんか。それにしても、うーんバイトか……。
ま、ひとりでいてもグチグチと考え込んじゃうだけだし、逆にいい気分転換になるかも。
そうと決まれば、さっさと帰るか。
オレは教室を出た。
美鈴さんは焦っているみたいだった。ちょっと急いだ方がいいかも知れない。
階段を1段飛ばしに下りていく。
オレはカフェ・むささびにたどり着いた。このオリエンタル風味に溢れたオープンカフェが、“カフェ・むささび”だ。
店のネーミングはともかく、味は保証する。
最初のコメントを投稿しよう!