第1章

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 以前は、前橋でも、1,2を争う人気店だった。今でこそ、その勢いも落ち着いてきたけど。オレはここで、もう1年以上バイトをしている。  「おはようございまーす」  美鈴さんが死んでいた。じゃなくて、死んだような顔をしていた。  「ああっ、哲也君。よく来てくれたわ……。申し訳ないんだけど、急いで着替えて、入ってくれない?」  「あれ? 植木さんと、れいなちゃんは?」  「植木君、辞めちゃったのよ」  「マジ!?」  植木さんとうのは、同じバイト仲間の大学生だ。学校サボっていつも麻雀ばっかしてる。  「辞めたって、いつ!?」  「今日、急に連絡があって。大学も辞めて、ご実家に帰るんですって」  そうか。だから急遽、オレに入ってくれと頼んできたわけだ。  「れいなちゃんは?」  「遅刻。連絡が取れないのよ」  れいなちゃんはいつものことか。よりによって、こんな日に遅刻することないのに。  「ってことは、美鈴さんひとりで回してたんですか!?」  「そうなの。だから哲也君、早く着替えてきて」  美鈴さんに急かされて、オレは慌ててロッカールームに飛び込んだ。  素早く着替えて、店内に戻る。  美鈴さんはオレと代わってカウンターの中に引っ込み、せわしなくオーダーを用意し始めた。見ると、伝票がかなりたまっている。  それから30分ほどは、オーダー運びとバッシング、会計に追われて、あっという間に過ぎていった。  「ふー、ようやく落ち着いた……」  嵐のような忙しさも過ぎ去り、カウンター横で一息吐く。  「お疲れさま。助かったわ。哲也君がいてくれてよかった」  面と向かって感謝されると、照れてしまう。  「よしよし♪」  美鈴さんが、いきなりオレの頭をなでなでしてくれた。  「…………!」  突然のことに、まったく避ける暇もなかった。不意を突かれた。  「あら、どうかした? 顔が真っ赤よ?」  「いえ、なんでもありません……」  客のいぶかしげな視線が突き刺さってくる。美鈴さんも、場所を考えてほしいもんだ。  「やっぱり、まだ具合が悪いんじゃない?」  「具合?」  ああ、そういえばオレは風邪を引いたっていうことになってるんだった。  「それは平気です。美鈴さんこそ、少しは休んだらどうです?」  きっと朝から働きっぱなしだろう。  「わたしなら大丈夫」
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