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「それでは私が一茶の親御に償っても償いきれぬではないか。そのようなことを申すな…」
寂しそうに微笑まれる影千代さまに、ハサミが引き裂かれそうなほど胸が痛い。
「…ただ私は影千代さまお仕えすると決め、名付け親である国王より“一茶”の名を頂戴したあの時より……骸と化すまでお仕えするとかたく心に誓い、今の今までお仕えしてまいりました」
私は地面にひれ伏し、額を地につける。
「お願いいたします。私の任を解くなど、お考え直しくださいませ!お願いいたします…」
慌てて身を屈められる影千代さまに『失礼致します』と背後より声に聞こえた。
「小隊長…紫紺(しこん)か?」
「はい。影千代さまのお計らいにより、私以外の部下は皆、城へと帰りました」
サソリモドキ・ビネガロンの紫紺の言葉に、影千代さまはホッとしたように『そうか、世話をかけたな』と労われる。
影千代さまのお言葉を聞き、紫紺は『もったいのうございます』と頭を下げているようだ。
「影千代さま、今日のところは保留にしていただけないでしょうか?」
「し…紫紺」
頭を下げたままの俺に『一茶も今日は退け』と、俺の背より抱き上げるように体を起こす。
「影千代さまを困らせることは、一茶の望むところではないだろう?」
「しかし、私は…」
「影千代さま、一茶の気持ちもお考え下さい。一茶は影千代さまを絶対的な唯一の存在として幼少の頃よりお仕えしておりました。それだけは…ご理解いただきたく」
「わかっておる。一茶は今日まで、私の一部となるに余りある貢献ぶりであった。私とて……されど、これより先は土蜘蛛が里。我が背を任せられるほど命を懸けて仕えてくれた一茶に、いらぬ負担はかけとうないのだ」
影千代さまは震える声だけでそれだけ発し、私達を残し立ち去った。
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