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立ち止まり辺りの様子を窺うと、紫紺は物陰へと潜むように入り私を降ろした。
「黒蠍国の長男は頭は切れるがお優しすぎる。次男は頭はイマイチだが、武芸に長け長男を立てておられる。問題は三男と四男の同腹のお二人だ。ご兄弟きっての馬鹿兄弟だが…」
「現左大臣筋の孫にあたられるお二人だな。お二人のうちどちらかを担ぎ上げようとする有り得ない動きがあると聞いたことが…」
「ああ。ならば国王に一番相応しい影千代さまを…と水面下で再び動き出そうとしている。影千代さまは、『長兄が一番問題なく且つ相応しい』と予々より仰っておられただろう?一茶は影千代さま派だったがな」
私の心を見透かすように目を覗き込む。
「今でも一番相応しいとは思っているが、御本人に野心がなく、望んでおられないこともわかっていた。ご兄弟間の嫌な空気に心痛めておられたことも…」
「ああ…御自分が城にいることで、無駄な争いに発展させたくなったのだろう。現左大臣はご自身の亡き母上の従兄弟にあたられる御方だが、『次の国王には長兄を。要らぬ争いは民を苦しめる』とだけ強く主張し城を出られた」
お優しい影千代さまは、無駄な争いを忌み嫌う。
「予感はしていた。影千代さまはいずれは、城を出られる日が来ると思ってはいた。御自分で道を切り開かれると…」
だが、その時、隣にいるのは私だと願い、夢に思い描いていた。
私は結局、選んでいただけなかったのだ。
私は自分が思うほど、必要とされなかったのだ。
身の程をわきまえず、影千代さまになくてはならない存在だと図にのっていた。
涙がまた溢れ出し、顔を覆う手を濡らす。
「もう私には…生きていく意味などない。生きている限り、傍にいることを望んでしまう。ならばいっそ…このまま野垂れ死に…影千代さまのお目に触れることがない世界へ旅立つ方がいい」
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