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お茶を飲み終わると、時計を確認した梅田先生が午後の診察のために帰っていく。
キッチンの片付けを夫人に任せ、梅田先生を見送りに直人と玄関に向かう。
歩く度にサカサカと鳴る頭上に、まだシロツメクサの花冠を被っていたのだと気付く。
「ナオくん、もう花見は終わったから花冠を返すな」
「先生がつけてて」
あんなに執着していたのにいらないと言われて、やっぱりなと分かっていても、ズンと沈んでいく心。
なんだか足まで重くなってきた。
「すごくきれいだから、もっと見てたいの。先生がぼくに作ってくれただいじなのだから、とっちゃだめだよ」
愛しそうに俺の頭に載る花冠に触れる直人に、心が柔らかな羽に包まれてふわふわ浮上しいくような気持ちになる。
あんなに重かった足も急に軽くなり、跳ねるように玄関に向かう。
「じゃあまたね」
「はい、お気をつけて」
「つけて」
俺の口調を真似る直人に、梅田先生と同時に吹き出してしまう。
きょとんとしていた直人も、楽しげな空気に嬉しくなったのか一緒に笑い出す。
「じゃあナオくん、書斎に行って四つ葉のクローバーをしまう準備をしようか」
「じゅんびぃ?」
「あぁ。ずっとしまっておくには必要なことなんだ」
「するっ!」
楽しいことをするのだと期待しているのか、スキップでもしそうな勢いで書斎に向かう直人の後を追う。
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