序章

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僕の名前は東堂薫。兄は猛。 僕ら兄弟は不思議な運命に生まれついている。何百年か前のご先祖が呪いを受けたせいらしい。 一族に長命男子が一人いて、あとは親兄弟、妻子、親類縁者が若くして死んでしまうのだ。 現在、残った男子は僕と猛だけ。このまま行くと、早晩、兄弟のどちらかが死んでしまうというディープな運命だ。 さて、僕は、いたって平凡な人間だが、兄は他人にはない特技がある。 念写だ。 過去に起こったこと、未来に起きること、今まさに起こってること、他人の思考なんかも、テレパシストっぽく写真に撮れる。 この特技をいかして、兄と僕は探偵をなりわいにしている。 そこで扱った事件を、僕は自分が生きた証として、こっそり小説に書きためている……のだが、この事件について書くことを、僕は決断しかねている。 これまでの事件は、猛が念写できることをのぞけば、科学の原理にのっとっていた。 ところが……この事件は、違う。 ああ、こんなこと、書いちゃっていいのかなあ。なんか、僕の妄想だとか言われそうだ。 でも、まあ、しょうがない。SFならSFでいいよ。 僕が死んだあとで、兄の役に立つかもしれないし。 そう思って、筆をとることにする。 ヤマタのトカゲ。 あの恐ろしい事件を、僕は生涯、忘れないだろう。 不可解で、信じられないことの連続だった。 あの人知を超えた世界へ僕らが足をふみいれたのは、今年の春、桜が美しい季節だった……。
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