七章 不条理の条理

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「砂漠で道を失い、かわききっている人に、オアシスから来た旅人が、水はくれずに、オアシスの場所を教える。 今まで耐えたのだから、もう少し、がまんできるだろうと。 それは死ねと言ってるに等しいと思うのだが……。 まあ、いい。 千年、待ったのだから、あと数年、待とう。 行っていいよ。蘭」 水魚さんは、そう言って、蘭さんの頭から、カンムリをはずした。 「でも、忘れないで。 私たちは、いつも、いつまでも、君の帰りを待っている。 君が困ったときには、必ず、ここへ帰ってきて。 君の魂のふるさとは、この地だ」 蘭さんは、だまって、指輪を指から引きぬいた。 あの蛇の指輪。 卵をかかえたヘビを、水魚さんの手に、にぎらせる。 いろいろ、かかえこんだ、オロチのまつえいの水魚さんには、ぴったりかもね。 二人は、二人にだけ聞こえる特殊な波長で会話してでもいるかのように、沈黙したまま、手をにぎりあってる。 けど……僕は気が気じゃない。 やっぱり離れたくないとか言って、もう一回、水魚さんの気が変わったら、どうするんだ。 僕は蘭さんの手をとって、猛のとこまで、全速力で走った。 「水魚……」 ふりかえる蘭さんに、水魚さんは手をふる。 「御子の衣装は置いといて。 今夜は別の代役を立てるから」 僕らはエレベーターを降下し、もとの屋敷側から、外へ出ていった。 もちろん、客間に寄って、蘭さんが平服に着がえてからだ。 「なんだったの? さっきの写真」 僕がたずねると、猛は笑った。 「おれたちといるほうが、蘭は、いい顔するってことだよ」 うーん。わかったような、わからないような。 でも、よかった。 蘭さんが帰ってきて。 「よーし。アワビも残ってるし、アイちゃんがブリ買ってきてくれたし、ごうせいな夕食、作っちゃうよ。 ぱあっと、蘭さんのお帰り記念にね」 「僕、かーくんの焼いてくれる、ダシ巻きが食べたいな」 「そんなの、ちょろい。ちょろい」 「おれは肉がいいよ」と、猛。 「いいよ。いいよ。今日は腕、ふるっちゃうもんね」 僕らは、蘭さんをまんなかにして、歩いていった。 ずいぶん長い時間、地下にいたんだな。 日はかたむいて、西日が、まぶしいほど金色に輝いていた。
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